はじめての皆さんこんばんは。そうでない方もこんばんは。
北は北会津から南は南会津まで、世界をまたにかけるキバンインターナショナルの中村おりおです。
前回の話
前回はだいたい、以下のような内容でお話いたしました。
・iPod nano で eラーニング
・携帯端末や動画で熟練技術者の技術を継承
・熟練技術者の技術継承における課題
熟練技術者の技術継承における課題とはなんぞや? といったあたりで、前回は終了致しました。
このあたりに関しまして、日本教育工学会研究報告集に面白い事例(※)がありましたので、これを
紹介しつつ考えてみたいともいます。
この報告では、日本の伝統工芸のひとつである、漆器・会津塗を例に取り上げ、その伝承支援方法を
考察して、そこから、暗黙知を形式知として抽出する普遍的な方法を取り上げています。
暗黙知とか形式知というのは、ナレッジマネジメントの理論の中でよく取り上げられる用語です。
このナレッジマネジメントの基礎理論としては、SECIモデルなんかが有名なのですが、興味のある方は、リンク先を熟読頂くとして、とりあえず間違いを恐れず大雑把にいうと、暗黙知というのは、個々人の体験や常識など個人に属する知識です。
これだと他の人と共有させにくいので、マニュアル化したり、図表・数式などによってわかりやすく変換して(形式知にして)、みんなで共有しようね、と。共有するとその形式知が個々の暗黙知をさらにレベルアップさせ・・・みたいな感じです。
ともかく、暗黙的なものをマニュアル化するとか皆が分かるような形にして、どんどん共有しようぜ、とまぁそんなイメージです。
さて、話を会津塗りに戻します。
今回の題材は、伝統工芸の職人芸ですから、個人のノウハウや経験、つまり暗黙知によるところが多く、
マニュアル化などの形式知とは、相容れないのではないかと想像できます。
しかし、この報告書では、いくつかのキーポイントを活用し、暗黙知の形式知化の方法として抽出しています。
ポイント
・レセプターが形成されるように活用する
・作業を行うための理由に技術習得のポイントがある
・特定分野における「常識」といわれるものを形式化する
●レセプター
また新たな用語を出してすいません。
人間が新たな情報に触れそれを理解しようとする際、その情報は既に知っている何かと結び付くことによって初めて知識となる事ができる、この既に知っている何か、をレセプターと呼んでいます。
例えば、あるゲームの遊び方を覚えたいとき、マニュアルだけ読んでもどのように遊ぶのか実感がつかめず、いまひとつ良く分かりませんが、いっかい通して遊んでみると、大まかな流れが把握できているのでマニュアルの内容が理解しやすい、この時、一回通して遊んで流れがわかっている状態が、レセプターがある状態になります。
つまり、ある事柄を伝承させたいと思ったら、その情報を知識化させる為のレセプターが必要だよね、ということです。
●作業を行うための理由に技術習得のポイントがある
さて、では何がレセプター足りえるのでしょうか。報告では、会津塗りの各工程とその工程が必要な理由を明らかにすることがポイントとされています。
工程と理由とは、例えば
漆を熟成させる(粒子が均一で滑らかな漆にするため)
調合の割合を変える(気温・温度・用途による)
溶剤の量を控える(粘度が高いと跡が残りにくい)
※(括弧内が理由)
というものです。
ある工程で作業をする場合、その作業の手順の説明だけでは応用が利きません。
特に今回の例のような伝統工芸の場合、大まかな流れはあるものの、厳密な手順があるわけではなく、作業時の状況(気温・湿度・材料の状態)などに合わせて、職人が長年の経験から培われた工夫によって作業を行います。
それらは、個別に見ると突発的な例外とその対処の例にしか見えず、形式化しにくいように思われます。
(この時はこう、こうなったらこう、という手順だけでは、手順が山盛りになってしまう)
このような例の場合、ある作業の手順とその理由を記載しておくことで、作業者は、その作業が必要な理由を前もって知る事ができ、何か例外が発生しても作業者が自身で工夫を凝して問題を回避する素地を作る事ができます。また、このような知識は、その作業の本質を理解する大きな手がかりになります。
●特定分野における「常識」といわれるものを形式化する
各工程の作業とその理由のほかに、形式化しておく事が効果的なものに、「常識」があります。
特定分野(ここでは会津塗り)の常識として位置づけられる知識は、改めて言葉として語られないなど、暗黙知として存在しています。(上記の工程のその理由も、職人にとっての常識といえるかもしれません)
このような知識は、わざわざ語られないため、教材化(形式知化する)際に抜け落ちてしまう危険性があります。
逆にあまり盛り込んでも、教材そのものが冗長になってしまう危険性もあります。
その為、教材作成者の技量やセンスに依存するところも大きいのですが、このような知識もカバーしておかないと
思わぬ落とし穴となりかねません。
落とし穴
この部分は、インストラクショナルデザインの理論や、それを応用した教材作成マニュアルによって、
具体的には、教材の対象者の設定や、教材のレビューの手順が、参考になるかと思いますが、それらは、別の話
としてどこかで取り上げます。
●まとめと次回
今回取り上げた報告では、会津塗りという伝統技能の継承という、暗黙的な知識ばかりのようなものであっても、
よくよく取材をすれば、暗黙知のなかでも形式知に変換できる部分が多いという事が、浮き彫りにされています。
技能の伝承というのは中々に難しい課題ですので、日々頭を悩ませている担当者の方も多いと思われますのが、
その方の参考に、少しでも役立てればと思います。
弊社で取り扱っているeラーニングのシステムや、PPT2Flash、QuizCreator、PPT2Mobileなどの製品も、このよな技能伝承に役立つ製品ですので、次回は、これらの製品を具体的な使って紹介をしてみたいと思います。
※ 参考文献
菅谷克行・上野恵美子(2009)
熟練技術と専門知識の伝承支援に向けて
日本教育工学会研究報告集 JSET09-1
※本稿は、参考文献を元にした筆者なりの解釈なので、誤解・偏見・ミスリードを含むかもしれません。
内容に興味をもたれた方は、可能であれば原典をあたったり、周辺知識の文献にも触れる事をオススメします。